東京オリンピックを目前にして俄然注目を集めているのがクライミング。スポーツニュースでも大会の結果などをよく見かけるようになった。そんな大会においてコース設定を行うなど、元日本代表選手としてクライミングを支え続ける永田乃由季さん。実はGO OUT CAMPが開催されているふもとっぱらにある常設のボルダリングウォールは永田さんによる設計。他でも様々なイベントやジムのコース設定なども手がけられている。永田さんにクライミングとは?という初歩的質問から日本代表選手の話、そしてどんな人がクライミングをするのに向いているのか?などを聞いてみた。
- 永田乃由季
- 沖縄県出身。10年以上にわたりクライミング競技や自然の岩場でのクライミングを経験。国内の国体(国民体育大会)や日本選手権に出場。中国でのアジア選手権、ヨーロッパでのワールドカップなど数多く出場。2005年~様々なクライミングジムにてインストラクターやルートセッティング業務、イベント運営やクライミングジム運営を行なっている。2013年からはGO OUT CAMPのクライミング部門監修も行っている。またアウトドアファッションをモチーフにしたUNITED ARROWS 2011 FWカタログ にてクライミング部門の監修なども。日本山岳協会認定C級ルートセッター。
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クライミングの中のボルダリング
クライミングっていうのは広い枠で登ることそのものを指して、ボルダリングはその中のジャンルの1つですね。なので本質的には登るという意味で同じものなんですが、一般的にロープをつけて壁を2-30m登るような競技をクライミングって呼ぶことが多いです。ボルダリングは元々、クライミングの2-30mある壁面の中の難しいパート、核心部って呼ぶんですけど、その部分だけを練習するために生まれたんです。で、そこを特化して練習してたらみんなが面白がりはじめて、どんどん別のカルチャーとして広がっていきました。なので、登山=アルパインクライミングがあって、その一部がクライミングであり、またその一部がボルダリングとも言えるかと思います。今、ボルダリングは動きがどんどんハードになっていて、2-3mくらい飛ぶような動きもあったりするんですが、それはロープで登るクライミングでは出てこない技術です。単純に難しさとかフィジカルの重要さとかで言えばボルダリングは独自のものになってきていますね。そうやってボルダリングが独自に進化したこともあって、ロープは一切やらない、自然の壁は登ったことがないっていうような人も出てきていますし。
自然の壁はまた違うんですよね。ジムの壁でやるようなホールドからホールドへ飛んでつかまってみたいなのはなくて、数mmの突起をつかんで、見えないようなところに足をひっかるなどの技術が必要になります。バランスも人口壁よりも繊細になりますし動物的な感覚も必要になります。あとは自然なので環境によって大きく変わります。例えば気温差でも大きく変わるんですが、夏場の岩は湿度がたかくてヌルヌルしてるので登りにくいとか、秋冬の乾燥した季節の岩だと登れるなんてことも多々あります。
今の日本代表選手たちは神レベル!!
今の選手たちは相当レベルが高いですね。昔とは比べ物になりません。今、日本代表の伊藤ふたば選手のコースセッティングとかやってるんですけど、もうあの子たちは神レベルです!! 僕が全盛期にやっててもまず敵わない(笑)。日本はクライミング競技において世界でもトップクラスなんです。国別ランキングでいうと1位で、2位の国との差もすごく大きい。だからオリンピックでのメダル獲得もすごく期待されています。昔はヨーロッパが強かったんですが、ここ5-6年は日本ですね。強くなった理由としては環境の変化が大きいと思います。国内でのコンペの数が増えて競争が増えたのと、日本人独特の真面目さも影響しています。なにより体型でも日本人はクライミングに向いているんです。体が大きいと受ける遠心力が強くなるんですよ。ホールドからホールドへ移る時に横移動だと、体が揺れちゃうじゃないですか。あれは体が大きければ大きいほど影響を受けやすくて、体が小さいと受ける影響も小さくて済む。棒を振り回すのに長いのをコントロールするより短い方がコントロールしやすいって言うとわかりやすいですかね。とにかくクライミング競技における日本はサッカーでいうところのスペインとかブラジルって感じですよ。もう異次元の強さ。そんなレベルの選手が戦うW杯とかオリンピックの中だと、もう選手たちのフィジカルやテクニックのレベルはほぼ同じだと思うんですね。みんなトレーニングで上げられるところまで上げきっているので。そうなると最後に大事なのが根性なんですよ(笑)、メンタルですね。そばから見ていてそれはすごく大切だと思いますね。
東京オリンピックを機により大きなムーブメントに
元日本代表だった仲間で代表選手のためのコース設定をするんですけど、僕らがこれ大丈夫かな?クリアできるかな?って思うようなコースでも一発でやっつけちゃう(笑)。ボルダリングって大体8手くらいでクリアできて、その内の3手くらいを難しく設定するんですが、そこも全部一発でやられちゃいます。コースを設定する時に限りなく日本代表に実力が近い試登員も用意して設定したコースの確認をしてもらってるんですね。難しすぎると選手が全員同じところで落ちたりして勝敗がつかないこともあるので。そこまでやってギリギリのラインで作るんですが、一撃でクリアされちゃいます(笑)。
そんな選手たちがオリンピックを機にもっと注目されて、経済的にもサポートをどんどん受けられれば、業界全体も潤ってくるので、より大きな盛り上がりが期待できます。僕が代表だった10年ちょっと前くらいだとクライミングの選手がメディアに露出するなんてこともほぼありませんでした。選手層も薄かったですし。それがどんどん露出することで世間からの認識もすごく高まってきていると思うので、東京オリンピックを機により大きなムーブメントになれば嬉しいですね。