トレイルランニング(トレラン)とは?
トレイルランニング(Trail Running)とは、山や森、林道などの未舗装の道(トレイル)を走るアウトドアスポーツ。舗装されたアスファルトを走るロードランニングとは異なり、自然の中を駆け抜けるのが最大の魅力で、登山とランニングの要素をあわせ持つアクティビティとして人気を集めている。
トレランの舞台となるのは、木の根が張る森の小径や、岩場の続く山道、草原のトレイルなど、変化に富んだ自然地形。平坦な道を一定のペースで走るマラソンと違い、上り坂や下り坂があるため、脚力だけでなく体幹やバランス感覚も鍛えられる。地形や天候に合わせてスピードを調整しながら走るため単調になりにくく、自然と一体になって走る楽しさを味わえるのが特徴だ。
トレランの魅力
トレイルランニングの最大の魅力は、五感で自然と調和する爽快感にある。木々の間を駆け抜け、絶景や森の香りを感じる体験は、ロードでは味わえない特別なものだ。自然の中で走ることは心身をリフレッシュさせ、日常のストレスを解消する効果も大きい。
さらに、起伏に富むコースを走るため、平坦な道よりも多くの筋肉を使い、運動効率が非常に高いスポーツである。上り下りを通じて体幹やバランス感覚も鍛えられるのだ。未知のコースに挑む冒険心と、険しい道を乗り越えた時の達成感が、トレランが多くの人を惹きつけてやまない理由の1つでもある。
トレランに必要な装備
トレイルランニングを快適に楽しむには、専用の装備が欠かせない。舗装路とは異なる自然のフィールドでは、路面や気象の変化に対応できるギアを選ぶことが安全にも直結する。ここでは、初心者がまず揃えたい基本アイテムを紹介する。
トレランシューズ
トレランの要となるのが、専用のランニングシューズ。ロード用と違い、アウトソールには凹凸のあるラグ(突起)が施され、ぬかるみや砂利道でもしっかりグリップする。また、アッパー素材は通気性を保ちつつも岩や枝の接触に耐える強度を備えたものが多い。
コースの特性に合わせて、クッション性重視のタイプや軽量・スピード重視のモデルを選ぶと快適に走ることができる。
トレランザック(ランニングパック)
水分や補給食、レインウェアなどを持ち運ぶためのランニングパック(トレランザック)は、走っても揺れにくいよう体に密着する構造が特徴で、胸や脇をストラップでしっかり固定できる。
容量は5〜12L程度が定番だが、距離や天候、補給ポイントの有無で最適なサイズを選びたい。最近では、ハイドレーションシステム(チューブ式給水)対応のモデルや、ボトルを前面に収納できるタイプも人気だ。
ウェア
山の天候は変わりやすく、ウェア選びも重要だ。基本は吸汗速乾性に優れたベースレイヤーを着用し、気温や標高に応じてウインドシェルやレインジャケットを重ねるのがスタンダード。通気性・軽量性に優れた素材を選べば、汗冷えを防ぎつつ快適に走れる。
また、キャップやサンバイザー、アームカバーなどの小物も紫外線対策として活躍する。
ハイドレーション・補給アイテム

長時間のランでは、こまめな水分補給とエネルギー補給が欠かせない。ハイドレーションパックは走りながらでも給水できる便利なアイテムで、背面のリザーバーに水を入れ、チューブで飲むスタイルが主流となっている。
ジェルやエナジーバーなどの補給食も、ザックのポケットに入れてすぐ取り出せるようにしておくと安心。また、季節や距離によっては塩分補給アイテムも持参するとより安全だ。
安全装備(ライト・エマージェンシーギアなど)
自然の中では、急な天候変化やケガ、日没など予期せぬトラブルも起こり得る。必携品として、ヘッドライトやホイッスル、簡易エマージェンシーシートを備えておくのも重要。特にヘッドライトは夜間だけでなく、トンネルや濃霧時にも役立つ。
スマートフォンやGPSウォッチで現在地を把握しつつ、無理のない計画で行動するのが基本だ。
トレランの始め方
トレイルランニングは、特別なスキルがなくても始められるアクティビティだ。ただし、いきなり険しい山道に挑むのではなく、環境が整った安全なフィールドからスタートするのがポイント。
初心者が無理なくトレランを楽しむためには、まずコース選びや距離の目安、続けるコツをおさえておく必要がある。
初心者は整備されたコースから始めると安心
最初は、安全でアクセスしやすい場所からはじめると安心だ。おすすめは、管理道や林道など整備されたコースで、途中にエスケープルート(下山路)やトイレがあるエリア。
都市近郊にも初心者向けのフィールドは多く、東京なら高尾山や奥多摩、関西なら六甲山や生駒山などが定番となっている。
万が一の際にもすぐ下山できる安心感があり、道迷いのリスクも低い。最初は景色や自然を楽しむつもりで、歩きながら走るくらいのペースがいいだろう。
距離10km前後・標高差500m以内が目安

初心者の目安としては、距離10km前後・標高差500m以内が安心ライン。ロードランの10kmと比べると、トレイルでは起伏が多いため、同じ距離でも体力消耗が大きい。
最初は2〜3時間で走破できるコースを選び、徐々に距離を伸ばしていくのが理想だ。大会デビューを目指すなら、まずは10〜15kmほどのショートレースから挑戦するといい。登りは無理に走らず、早歩きを混ぜながらペースをつかもう。
自分のペースで楽しむのが長続きのコツ
トレランを長く楽しむコツは、「完璧を求めないこと」。コンディションや天気によって走り方を柔軟に変えるのが大切だ。走るたびに景色や季節の変化を感じられるのがトレランの醍醐味。さらに仲間と一緒に走ったり、地域のイベントや体験会に参加したりすれば、自然とモチベーションも上がる。
そして、終わったあとは温泉やカフェでリフレッシュ。そんな「ごほうび」も、続ける原動力のひとつになる。
トレランシューズ・ザックの選び方
トレランでは、シューズとザックが「安全性」と「快適さ」を左右する重要な装備になる。
路面が滑りやすい山道を走るため、一般的なランニングシューズではグリップ力や耐久性が不足する。
また、水分や補給食などを持ち運ぶ必要があるため、身体にフィットして揺れにくい専用のザックを選びたい。
地形に合ったソール選びで走りやすさと安全性をアップ

トレランシューズのソールは、走る地形によって適した形状が異なる。
森林の土道や低山トレイルでは、ラグ(凸凹)が浅めのソールが快適。グリップ力と走りやすさのバランスが良く、足への負担も少ない。
一方、岩場やぬかるみの多い山岳地帯では、深めのラグが刻まれたソールが◎。滑りにくく安定感があり、下り坂でもしっかりブレーキをかけられる。
地面の硬さや湿度によっても感触が変わるため、ショップで試し履きし、実際に足裏の感覚を確かめてみるのがおすすめだ。
フィット感と軽量性のバランスが重要
トレランでは、長時間のアップダウンを繰り返すため、シューズのフィット感が重要。つま先に少し余裕を持たせつつ、かかとや甲部分はしっかりホールドされる形が理想だ。
軽量性も走りやすさに直結するポイントで、1足250〜300g程度のモデルなら疲れにくく快適。
ただし、軽すぎると安定感が落ちるため、走るコースに合わせて選ぶのがいいだろう。
メッシュ素材のアッパーを採用したモデルは通気性に優れ、夏場のトレイルでもムレにくい。沢があったり、天候のよくない場合は、あえてメッシュ素材を多用したシューズにしておくことで、濡れを気にせずに楽しむことができる。
揺れにくく通気性の高いザックでストレスを軽減
トレランザック(ランニングパック)は、「走っても揺れない」ことが第一条件。身体にぴったりと密着するベスト型を選ぶと、揺れが少なくストレスが減る。
容量の目安は、日帰りなら5〜10L、ロング走や大会参加時は12〜20L程度。フロントポケットにソフトフラスク(水ボトル)を収納できるタイプは、給水しやすく便利だ。
また、背面がメッシュ構造になったモデルは通気性が高く、汗ムレを軽減してくれる。試着の際は、実際に荷物を入れて走る感覚を確認するのが失敗しないコツだ。
トレランアイテムの人気ブランド・注目モデル
トレイルランニングは、ギア選びが走りの快適さを大きく左右する。
ここでは、世界中のランナーから支持を集める代表的なブランドを紹介する。
どのブランドも、タフな環境で培った機能性とデザイン性を兼ね備え、街でも映える“使えるギア”を展開している。
SALOMON(サロモン)
ULTRA GLIDE2 ¥13860
トレランシーンを語るうえで外せないのが、フランス発のサロモン。独自の「Quicklace(クイックレース)」システムによる着脱のしやすさと、優れたグリップ力を持つアウトソールが特徴。
「SPEEDCROSS」や「ULTRA GLIDE」など、地形や距離に応じた幅広いモデルをラインナップしており、初心者からトップランナーまでファンが多い。デザイン性も高く、タウンユースでも活躍する万能ブランドだ。
MERRELL(メレル)
AGILITY PEAK 5 ¥19800
アメリカ発のメレルは、トレイル由来の確かなグリップと堅牢さに定評あり。軽量かつ反発性のあるFloatProフォームや、路面の突き上げを和らげるロックプレート、岩場で効くVibram® Megagripアウトソール採用モデルなど、路面状況に合わせて選びやすいラインアップが強みだ。
ロング走に安定感をもたらす「Agility Peak 5」、スカイレースで機敏に走れる「MTL Skyfire 2」、オールラウンドに使える「Long Sky 2」と用途も幅広い。足入れは比較的リラックスめで、長時間でもストレスが少ないのもうれしいポイント。タウンユースに馴染むカラー展開も人気を後押ししている。
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)
アウトドアブランドの代名詞ともいえるザ・ノース・フェイスは、トレラン分野でも高い信頼を誇る。軽量かつ通気性に優れたウェア、フィット感抜群のザック「TRシリーズ」、安定感のあるシューズ「Vectiv」シリーズなど、トータルで揃えられるのが魅力だ。
特に、長時間のランでもストレスを感じにくい設計が多く、レース志向のランナーからも支持を集めている。
HOKA(ホカ)
SPEEDGOAT 5 YOUTH ¥14300 ※廃盤
独自の厚底ソールで知られるHOKA(ホカ)は、抜群のクッション性が魅力。トレイルでも舗装路でも、着地の衝撃をしっかり吸収してくれるため、膝や足首への負担を軽減してくれる。
「Speedgoat」シリーズは、グリップ力と安定感のバランスが良く、多くのトレイルランナーに愛用されている。長距離やウルトラトレイルを走る人にもおすすめのブランドだ。
ALTRA(アルトラ)
LONE PEAK 6 ¥18700
アメリカ発のALTRAは、“ゼロドロップ”という独自構造で注目を集めるブランド。つま先とかかとの高低差がない設計により、自然なフォームで走れるのが特徴だ。
「Lone Peak」シリーズはトレイルランナー定番のモデルで、クッション性とグリップ力を両立している。素足感覚で地形を感じながら走りたい人にぴったりのモデル。
6-5. La Sportiva(スポルティバ)
TX4 EVO GTX ¥33000
イタリアの老舗アウトドアブランド、La Sportiva(スポルティバ)は、アルプス山岳地帯で培われた登山靴づくりの技術を背景に、高性能なトレイルランニングシューズを展開している。
岩場や悪路に強い高グリップソールや耐久性の高いアッパー構造が特徴で、タフな地形にも対応。近年では「TX4 EVO GTX」など、登山とランをシームレスにつなぐモデルも人気を集めている。本格志向のアウトドア派から信頼を得るブランドだ。
トレランを安全に楽しむための注意点
山の中を駆け抜けるトレイルランニングは、思わぬ危険と隣り合わせでもある。安全への配慮を欠くと、楽しむどころか命に関わる事態を招くことも。
トレランを長く続けるためには、基本的な心得は欠かせない。
ルート確認と最新情報チェックが基本
出発前には、ルートの距離・標高差・コース状況を必ずチェックするのが重要だ。公式サイトや登山アプリで最新の情報を確認し、通行止めや崩落などの情報も見逃さないことが大切。
「地図アプリがあるから大丈夫」と思いがちだが、スマートフォンのバッテリー切れや電波圏外の可能性もあるため、紙地図を併用するのが理想だ。
また、コースタイムはあくまで目安にすぎない。トレラン初心者であれば、公式の登山コースタイムの1.2〜1.5倍ほどの余裕を持ってスケジュールを組むのがいいだろう。
疲労や怪我、悪天候などで予定が狂った際に、すぐに下山できるエスケープルートを事前に把握しておくことも重要。安全対策のひと手間が、安心感と余裕につながる。
天候・体調が悪い場合は無理をしない

山の天候は変わりやすく、晴天だった空があっという間にガス(霧)で覆われることもある。雨で岩が滑りやすくなったり、視界が数メートルに落ちることも珍しくない。そんなときは「せっかく来たから」と無理をせず、撤退を選ぶ勇気が求められる。
また、体調が少しでもすぐれないと感じたら、無理をしないこと。トレランは有酸素運動が続くため、脱水や低血糖に陥るリスクもある。水分とエネルギーをこまめに補給し、身体のサインを見逃さないことが大切だ。
大会やグループでのランでも、自分の体調を最優先に判断することが結果的に仲間や周囲を守ることにつながる。
自然とハイカーへのリスペクトを忘れずに

トレランは自然を舞台にしたアクティビティであり、登山者やハイカーと道を共有している。スピードの出しすぎや、すれ違い時の無言通過はトラブルのもとになる。追い抜く際は一声かけ、狭い登山道ではスピードを落とすのがマナー。
また、自然への配慮も欠かせない。ゴミはもちろん、ジェルやテープなどの小さな包装片も必ず持ち帰る、植生を踏み荒らさないようにコース外には出ないなど、“自然に敬意を払う姿勢”がトレイルランナーの基本だ。
大会やイベントでは、こうしたマナーを守ることが評価の対象にもなっている。自然と共に生きる意識を持つことで、トレランの魅力はより深く、自分の中で確かなものになっていくはずだ。
GO OUTで紹介しているトレラン(トレイルランニング)関連記事一覧
GO OUTのトレラン関連記事では、トレランアイテムのリリース情報やランナーインタビューなどの情報が満載。トレランを楽しむためのヒントが詰まっている。
















