数年前まではオフシーズン扱いで、どこのキャンプ場も閑散としていた冬のアウトドア事情。極寒のフィールドにあえて繰り出すのは一握りの上級者だけでした。ところが、空前のアウトドアブームである近年、穴場として注目され返って人気シーズンになっており、特に年末年始は予約が取れないほど。
でも、冬キャンプがポピュラーじゃなかったのには理由があるわけで、ある程度の装備が揃っている中級者でもナメてかかると痛い目にあう。他のシーズンとはちょっと事情が違うんです。それでも他のシーズンにはない魅力も多いという冬キャンプを快適に楽しむには、一体どんな装備や準備が必要なのか、アウトドアのプロに聞いてきました。
人気ショップに聞いた、冬キャンプのおすすめアイテムも併せてチェック!!
極寒キャンプをしのぐには?人気ショップに聞いた、おすすめ冬キャンプギア。
Table Of Contents : 目次
圧倒的在庫量を誇る、人気アウトドアショップに聞いてみた!
訪れたのは人気ショップ「ワイルドワン」の中でも随一の大型店舗である「WILD-1 印西ビッグホップ店」。ショッピングモール内に構える店舗ながら路面店を凌ぐほど大規模な店内に厳選されたキャンプギアやウエアが所狭しと並ぶ。
今回はそんな超大型店のキャンプギア部門を統括する小河原さんに冬キャンプについてのアレコレを伺った。「冬キャンプは空いているのが魅力のひとつでしたが、ほかにも春〜秋にはない良さがあります。澄んだ空気にキレイな星、焚き火が一日中できて、虫も少ない。危険も多いですが、しっかりと対策をして、ぜひ装備を整えてトライして欲しいです」。
数え切れないほどのキャンプギアがあたり一面に並ぶ印西ビッグホップ店でセレクト含めキャンプギアを管理し取り仕切る。小学生の頃からアウトドアに親しみ、特に焚き火を愛好しており、冬キャンプ経験も豊富。
冬キャンプってどれくらい過酷?
春夏に活動する一般的キャンパーにとって、冬のフィールドは未知の世界。他シーズンでのキャンプとは何がどう違って、何を準備すれば良いのか、なかなか想像しきれないもの。
他シーズンでのキャンプ経験が多いほど「暖かい寝袋とダウンジャケットがあれば大丈夫でしょ!」なんて、軽く考えてしまいがち。しかし、それではマズいんです。
小河原「初めて冬キャンプへ行くという方なら、家中の毛布すべて持って行く、ダウンを車に積めるだけ積む、くらいの覚悟を欲しいです。現地で”防寒が足りない”では遅いですからね、オーバーだと思うぐらいが丁度いいです。また、適温は人それぞれ。ギアに表記されているスペックだけを見て慢心しないように注意が必要です。冬のキャンプ場は想定よりワンランク上の寒さですよ」。
寒さのピークは寝てる時にやってくる!? 就寝中の“底冷え”にご用心!
最低限これだけは絶対に持っていけ!というギアは?
小河原「強いてひとつ挙げるとすれば、ハイスペックなシュラフですね。これは極論ですが、超ハイスペックなシュラフを持っていけばなんとかやり過ごすことはできます。ただし、怖いのは気温がグンと下がる夜。特に就寝時は危険です」。
小河原「シュラフのスペックで見るべきはコンフォート。これは快適に眠れる気温を指している数字なので、この数字が低いほど、寒い環境でも快眠しやすいということになります。よくエクストリーム温度を気にされる方がいらっしゃるんですが、エクストリームの示す気温は『6時間生きていられる限界の気温』ということなので、コンフォート温度ほど重要ではありません」。
小河原「深夜から朝にかけての時間帯は最も気温が低くなるため、就寝時に寒く感じなくても、寝ている間に体が冷えてしまい、途中で目が覚めて眠れなくなるということも冬キャンプではよくあるんです。体が冷えてしまうと眠れないだけでなく、低体温症を引き起こしてしまう可能性もあり最悪の場合、命に関わります。シュラフはいいものを使いましょう」。
高スペックなシュラフは値段もそれなり。他にいい方法はありませんか?
小河原「たとえば、3シーズン用シュラフのレイヤードはアリですね。市販品でもアウターとインナーに分かれ、それぞれ単品使用できるモデルが存在しますし。布団と同じで重ねて使うことで単純に暖かさが増すので、真冬用は持ってないけど3シーズン用は複数持ってるという人はレイヤードスタイルを試してみてください」。
小河原「また、仮に極寒仕様のシュラフは値段が高くて買えない場合や、シュラフをそんなにいつくも持っていないという場合は、家の羽毛布団を複数持っていくなどしてもいいと思います。とにかく寝床は必ず万全にしてください!」。
シュラフの他にはどんなものが必要ですか?
小河原「シュラフの準備は冬キャンプで眠りに就くための第一歩でしたが、快適に眠るためには寝床を整えることが必要です。冬キャンプの夜に注意しないといけないのは『底冷え』。就寝中は地面から伝わる冷気で背中から体が冷えてしまいます。特に自重で潰れるダウンは顕著。そのため断熱性の高いマットも欠かせません」。
小河原「マットには断熱レベルを示す『R値』というものが表記されています。R値は高いほど断熱性に優れているのですが、雪中でない冬キャンプでも4以上はないと効果を実感しにくいかも。他にも厚さ的には4cmが目安。基本的に分厚いほど断熱性が増していくので分かりやすいですが、とはいえ、あんまり分厚いものだと収納や持ち運びに難が出ますので選ぶときは慎重に」。
ちなみに、コットはどうなんでしょうか?
小河原「コットはあってもなくてもいいと思います。コットがあれば寝心地がよくなるほか、体が地面から離れるため冷気を直接受けることがなくなります。ただし、地面とコットの間には風が通りやすく、今度は隙間からくる冷気で体が冷えてしまうので、コットを使う際もマットは必須です。座面の高いコットであれば、地面との間に荷物を置くなどして冷気を通りにくくするといいでしょう」。
ストーブは冬キャンプの強い味方。でも使用には注意点も。
ストーブはマストですよね?
小河原「登山中のキャンプとは違ってオートキャンプって日中でも割とじっとしていることが多いので、やっぱりストーブは絶対あったほうが快適ですよ。特に、防寒がおろそかになりがちな足元、焚き火中の無防備な背中もストーブがあればカバーできます」。
朝方ストーブがつかない時があるのですが、あれは一体……?
小河原「はい、燃料は入っているのになかなかつかないことってありますよね。これは、気温の低さにより、ガスが気化しにくいのが原因。使用可能な最低気温帯は、一般的にレギュラーガスが10℃程度、寒冷地用ガスが−2℃程度となっています。熱を加えて温めることは、思わぬ事故を生むので危険。日が昇るまで辛抱しましょう」。
小河原「上述の通り、ガスタイプは扱いやすくて燃料も手に入れやすいといったメリットはあるのですが、寒さでつかないこともあるので、これから購入するなら石油ストーブがおすすめです。ガスタイプに比べて持ち運びは不便でも安定して使えますよ」。
就寝時もストーブがあったほうが快適ですよね?
小河原「SNSを見ているとテント内で石油ストーブを焚いたり、薪ストーブをインストールしている様子をよく見ると思いますが、本来、テント内に火気を持ち込むのは厳禁です。燃えやすく密閉性の高いテント内でストーブを使うと、一酸化炭素中毒や火事の危険性があり、最悪の場合、死にいたります」。
小河原「ストーブに対応しているテントもありますが、実はいずれもメーカーは推奨していません。キャンプは安全が大前提。アウトドアは自己責任だからいいだろうという人もいらっしゃいますが、火事を起こしてしまうと周りのテントサイトにも被害が及びかねません。ストーブは必ず屋外で使ってください」。
冬キャンプに必携! 焚き火台はどう選ぶ?
焚き火台はどんなものがいいんでしょうか?
小河原「他のシーズンでは日中は暖かかったり暑かったりであまり日のあるうちから焚き火はしないと思いますが、冬キャンプは昼間でも寒いので暖を取る意味でも焚き火を一日中楽しめます。なので焚き火好きには最高のシーズンと言えますね。焚き火台を選ぶ際は、調理のできるものを選ぶと良いですよ!」。
小河原「また、暖をとるということでいえば周囲を温める効果の高い焚き火台もおすすめです。例えば近年人気のソロストーブはストーブ効果も高く冬キャンプに有効かと」。
小河原「冬は乾燥しているため、火の粉が飛んで燃え移ることもよくあるので焚き火台は蓋付きのものが理想的。トイレや洗い物などでテントサイトをちょっと離れる際、水で消火してしまうとその後に火をおこすのが大変だけど、メラメラ燃えた状態で留守にするのも危ないですよね。少しの間であれば蓋をしても火が完全に消えることはありませんし、火を抑えることができるので便利なんです」。
小河原「冬は乾燥しているので、火の扱いには普段以上に注意が必要です。林間サイトや芝生サイト、枯れ葉や落ち葉の多いキャンプサイトでは火が燃え移ってしまうリスクもあるので、寒いからといって火を大きくしすぎないようにしてください。もちろん、万が一に備えた消火の用意も忘れないでください」。
もっと快適に過ごすには? プラスαで知っておきたい防寒ギア選び。
強烈な寒さが襲ってくる冬キャンプには、寝床の防寒や、暖を取れるストーブ、焚き火など、徹底した寒さ対策が必要ということですが、どうせなら少しでもより快適に楽しみたいところ。冬キャンプをさらに満喫できるヒントを得るため、その他のアイテムについても聞いてみました。
服装は、どんな格好をすればいいんでしょう?
小河原「やはり保温力の高いダウンの上下があれば理想的。厚手のソックスも欲しいですね。結構足元って油断しがちなんですが、足先が冷えると全身が寒くなるのでご注意を。ただし、単純に厚着すれば良いわけではありません。あんまり着込んで汗をかいてしまうと今度は汗冷えの危険もあるので、吸水放湿性の高い機能インナーなどで効率的なレイヤリングを心がけてください」。
テントにも冬用ってあるんですか?
小河原「厳密にいえば冬専用とされるテントはないんです。ですが、寒さを凌ぎやすいものとなると、ボトムにスカートが付いているモデル。下からの隙間風が防げ、体温によって溜まった室内の熱も逃げにくいですから。結露しにくいコットンテントも冬向きかも知れません」。
プラスαであると助かる防寒ギアを教えてください!
小河原「電気ブランケットや湯たんぽがオススメです。前者は電源サイトやモバイルバッテリーなどの利用がマストですが、湯たんぽは電力なしでも保温力があり安心。手軽な後者は朝まで冷えないよう注意すれば使いやすい。いずれにしても熱には危険が伴います。特にキッズは低温やけどに気をつけて」。
冬キャンプはオーバースペックなくらいがちょうどいい!
注目度急上昇の冬キャンプだが、なめてかかると具体的にどんな痛い目にあうのかがよく分かりました。特に寒さが本領発揮する夜は油断大敵! 寝床の防寒はオーバーなくらいの準備が必要です。
危険が多いとはいえ、冬には他シーズンにはない魅力もタップリ! 今回学んだ対応策を駆使すれば、ビギナーでも十分に楽しめるはず。 しっかり準備・対策をして、今年こそ冬キャンプデビューしてみては。
Photo/Fumihiko Ikemoto
WILD-1 印西ビッグホップ店
住:千葉県印西市原1-2 ビッグホップガーデンモール印西1階 tel:0476-40-6112 営:11:00~20:00 無休