里山から旧街道まで、アソビの延長で“歩く”ことを楽しむ、GO OUT遊歩倶楽部。第6回目の舞台は、ハイクスポットとしてはちょっと珍しい、東京の下町。
そして今回の目的は「谷中七福神巡り」のルートを歩くこと。“七福神巡り”とは、恵比寿や大黒天など、宝船に乗る神様が祀られた7箇所の寺社を巡拝する日本古来の伝統的な行事。
すべてを巡ることで、さまざまな福運を授かると言われ、毎年新年に開催されることが多い。
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「谷中七福神巡り」のルートを遊歩してみる。

その歴史を紐解けば室町時代にまで遡ることができるが、一大ブームになったのは江戸時代。全国各地に巡礼スポットがあるなか、「谷中七福神」は江戸最古の七福神巡りとして知られている。
毎年、1月1日から1月10日まで開催され、新年恒例のイベントになっているヒトも多い。

参拝ルートは、田端や日暮里、上野などの下町エリアを結ぶ5kmほどの道のりで、ゆっくり歩いても3時間ほどで巡ることが可能。
田端駅と上野駅、どちらからでも巡礼できるが、今回は田端からのスタートを選択。年始の開催時期をちょっと先取りして、遊歩しながら7箇所の寺社を巡ってみることに。
師走でバタつくJR田端駅に集合!

キャン(GO OUT CAMPクルー)GO OUT CAMPのボランティアリーダー。富士登山のツアーガイドとしても活躍する、遊歩倶楽部の初代部長。
辻井国裕(office borshch PRディレクター)PRオフィス、ボルシチの代表。登山、自転車、パックラフトなど多彩な趣味を持つ、外遊び系ファショニスタ。
磯野涼音(Cotopaxi PR)カラフルなアイテムが揃うブランド、コトパクシのプレス担当。登山と旅が趣味で、今冬はベトナムに行く予定。
丸山崇久(トレイルブレイズ ハイキング研究所 研究員)人気ブランド、BROWN by 2-tacsのスタッフを経て、日本各地のトレイルルートを調査する研究員に。欧州からお遍路までバックパッキングで巡る生粋のハイカー。
ということで、師走でバタつくJR田端駅に集合。今回のメンバーは、キャンさん&辻井さんのレギュラーに加え、日本のトレイルシーンに携わる丸山さんと、コトパクシのPR担当の磯野さんが参加。4人ともハイカーなので、その延長で街歩きを楽しんでもらう。
キャン「よろしくお願いします! 今回は自然の中ではなく、街中を歩くシティハイクです」
丸山「下町は散歩の延長で歩くこともあるので、ちょっと馴染みあるんですよ。でも、七福神巡りはやったことないですね」
磯野「私は、このあたりを歩くのも初めてなので、いろいろ楽しみです!」
辻井「僕も初めてですね。東京でも、まだまだ知らない街が多いです」

田端から出発するルートは、まずは田端駅から歩いて5分ほどの場所にある「東覚寺」を目指す。七福神のなかの“福禄寿”が祀られているが、一般的には“赤紙仁王”が有名。


街中を歩くけど、あくまで散歩ではなく“遊歩”。ということで、4人にはいつものハイクコーデで来てもらった。バックパックを背負って歩く姿は、ハイカーそのものだけど、意外と街でも違和感がない。

駅前から続く本線道路から側道に入ると、すぐに立派な山門が見えた。ここは500年以上の歴史を誇る「東覚寺」。山門横に鎮座する、赤紙が貼られた仁王像が目印だけど、今回のお目当ては七福神の“福禄寿”。

境内に入って、本堂に向かって参拝。新年の七福神巡りの期間以外は、”福禄寿”像はご開帳されていないため、対面して拝観することはできない。
仙人がモチーフ? 不老長寿の福神「福禄寿」。

しかし、特別にご開帳時の写真をお借りすることができた。こちらがその1枚。1月1日から1月10日までは、このおめでたい姿を見ることができる。
“福禄寿”は、中国の道教出身。幸福(福)、身分(禄)、寿命(寿)を兼ね備えた存在で、長寿や人徳の神様として知られているが、宋時代の道士がモデルになっているという説もある。

そして、こちらが「東覚寺」の有名な“赤紙仁王”。自身の具合の悪い箇所と同じところに赤紙を貼って祈願すると、病気がよくなると言われ、実際に癒えた人は、わらじを奉納する慣わしがある。

間近で見る仁王像は、なかなかの迫力。赤紙を貼る風習は明治時代に広まったらしいが、阿吽どちらの像も新しい赤紙が多く、今もなお多くの人々がリアルタイムで訪れていることが窺える。


横断歩道を渡って向かう、次なる目的地は、“恵比寿”が祀られている「青雲時」。七福神巡りをしないと、なかなか歩かないような、閑静な住宅街を抜けていく。
そんななかでも、移り行く街景を眺めながら、山のハイクと大差ないテンションで楽しそうに歩く4人。

そして20分ほど歩いて到着した「青雲寺」。ここは、ほぼ隣接する「修性院」と共に“花見寺”と呼ばれ、四季折々の花樹が楽しめる美しい庭園があったとか。本堂前には枝垂れ桜の木があり、今もその片鱗を見ることができる。
大漁旗でお馴染み! 商売繁盛の福神「恵比寿」。

ここに祀られているのは、漁師たちが掲げる大漁旗でもお馴染みの“恵比寿”。しかし、福禄寿と同じく新年以外はご開帳されていない。ということで、ご対面できなかったけど、本堂に向かってしっかりと参拝。
ちなみに“恵比寿”は、大国主命の御子とも伝えられる日本独自の神様。鯛を持った姿が特徴で、大漁追福や商売繁盛の御利益がある商売人の味方だ。

次の七福神スポットは「青雲時」から徒歩5分の距離にある「修性院」。ここに鎮座する福神は“布袋尊”。歩き出すとすぐに境内の壁が見えたが、鮮やかなピンク色で陽気な“布袋尊”の姿が描かれている。
侘び寂びを感じさせる佇まいの「青雲寺」とは真逆のスタンスで、こちらはかなりポップな雰囲気。どうやら各寺院のスタイルの違いも見所になりそう。

「青雲時」と並ぶ、もうひとつの花見寺「修性院」は、安藤広重の江戸百景にも描かれている有名な寺院。
ここに祀られている“布袋尊”が、あまりにも立派なので、見とれているうちに日が暮れてしまった、という言い伝えがあり、そこから”日暮里”という地名が生まれたとか。
豪快な笑顔と太鼓腹! 夫婦円満の福神「布袋尊」。

こちらも新年以外はご開帳されていないが、特別に拝観させていただくことができた。そして対面できた”布袋尊”像は、圧倒的な存在感。
半裸姿で鎮座しているが、太鼓腹や福耳など憎めない風貌で、ガハハと笑っているような豪快な笑顔も印象的。”布袋尊”は、開運や子宝、福徳円満の象徴する、おめでたい存在として親しまれている。

あまりの立派な姿に、見た瞬間は声を上げて驚いていたが、改めて手を合わせ、厳かに参拝して福を授かる遊歩メンバー。
キャン「いや〜、これは凄い! かなり見応えありますね」
丸山「想像していたよりも、ずっと大きいですよね」

こちらも本堂脇に大きな枝垂れ桜が鎮座。今は枯れ葉状態だけど、春先の満開時は“花見寺”の名に相応しい、華やかで美しい姿が想像できる。
このあたりには、他に“月見寺”(本行寺)や“雪見寺”(浄光寺)もあるそう。日常の延長で自然を楽しむ江戸庶民の嗜みは、現代の外遊びにも通じる部分がある。もしかして“アーバンアウトドア”のルーツなのかも?

ここから先はしばらく、住宅街の裏路地に迷い込んだような歩道が続いていく。クルマでは通れないような小路をスルーハイクするのも街歩きならでは。
磯野「民家の間にこんな小道があるなんて、下町も奥が深いですね」
辻井「……むしろ、下町の最深部かもしれないですよ」
情緒あふれる「谷中銀座」で、商店街散策を堪能!

そして小路から抜け出した先にあったのは、このエリアを代表する商店街「谷中銀座」。地域住民の生活に密着した個人商店を中心に、様々な業種の店舗が全長170メートルほどの短い通りに立ち並んでいる。
丸山さんは何度か遊びに来ているらしいが、他の3人は初めて訪れたとか。

丸山「このあたりは、それぞの街の地名、谷中、根津、千駄木の頭文字を取って、“谷根千”(やなせん)って言うんですよ。昔ながらの街並みが残っていて、散歩するとおもしろいんです」
丸山さんがそう話す通り、日暮里駅から千駄木駅まで「谷中銀座」を通り抜けて、根津神社に参拝するルートも、散歩コースとして人気が高い。


ということで、七福神巡りはちょっと休憩して「谷中銀座」の商店街を散策する4人。ノスタルジーなお店に加え、最近はインバウンド向けのスーベニアショップも増えているようで、なかなかカオスな雰囲気。


それでも、昭和レトロな空気感は健在。上野や浅草とは趣が異なる下町の情緒を、たっぷりと堪能することができる。ここを散策するためだけに、訪れてもいいかも。
谷根千の人気スポット「夕やけだんだん」に到着。

そして谷根千を象徴する観光スポットが「夕やけだんだん」と呼ばれる階段に到着した。日暮里駅から歩くと「谷中銀座」の玄関口になる。
辻井「名前は聞いたことあるけど、どういう意味なんですか?」
丸山「階段の上から夕焼けが綺麗に見えるんですよ。今で言うところの“映えスポット”ですね」

早速「夕やけだんだん」を登る4人。夕暮れ時に訪れると、多くの人々で賑わう商店街が夕日に照らされ、黄金色に染まる景色が眺めることができるそう。


「夕やけだんだん」を登りきった先にも個性的な露店が並び、平日でもお祭り状態。ということで、まだしばらく寄り道モードが続きそうな気配……。
ただもちろんこれも遊歩の醍醐味! 歩くからこそ気がつき足をとめる。下町ハイクの魅力はこういうところにあるんです。
【#02後編へ続く】
Photo/Fumihiko Ikemoto
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