今回から新たにスタートするGO OUT WEBの音楽企画「GO OUT MUSIC FILE」。記念すべき第一回のゲストはキング・オブ・ステージことRHYMESTERのラッパー・宇多丸と、熱狂打楽器集団 LA SEÑAS(ラセーニャス)のリーダーと副リーダーである織本とさの。
2024年9月に静岡県富士宮市・ふもとっぱらで開催された〈GO OUT CAMP vol.20〉で同じ日のステージに登場し、独自のハンドサイン・システムを駆使したLA SEÑASの超絶技巧に感銘を受けた宇多丸がパーソナリティを務めるラジオ番組〈アフター6ジャンクション2〉のポッドキャストで彼らを熱く紹介し、その縁が繋がって実現した初顔合わせ。ラップと打楽器の達人同士が切り結ぶ、ライブさながらのトークセッションをお楽しみあれ。
インタヴュー・文/宮本英夫

(左から)織本、宇多丸、さの
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「最初のライブで“これはとんでもないことになるぞ”という感覚がありました」(織本)
宇多丸 去年の〈GO OUT CAMP〉で初めてLA SEÑASさんを拝見したんですが、演奏が凄すぎて、帰りの車の中でメンバーと「かっこよかったね」と言い合っていたんです。あのハンドサインは、オリジナルのものですか?
織本 考案したのはサンティアゴ・バスケスというアルゼンチンのミュージシャンで、日本でも2000年代に流行ったアルゼンチン音響派の中で頭角を表した方で、その方が2005年にハンドサインでリズムを構築していくマニュアルを全部作ったんです。指を4本出すと4拍子とか、フレーズの割り方を指で数えたり、100個以上のハンドサインを全部自分で作って。
宇多丸 比較的新しいんですね。それを元々のアルゼンチンのリズムや南米パーカッション文化と組み合わせたという認識でいいですか。
織本 いえ、どちらかというと、〈演奏者それぞれの持っているバックボーンを活かしながら即興的にフレーズを組み上げていく〉ということだと思います。
さの バスケスさんが日本にワークショップで来られたときにおっしゃっていたのは、「アルゼンチンには打楽器メインのトラディショナルな音楽がないからこれを作った」ということでした。
宇多丸 「ないから作った」なんだ! なるほど。
織本 だから奏者によってサウンドが違うんです。サルサ、サンバ、アフリカンとか、いろんなバックボーンを持ったパーカッショニストが集まって、その人から出てくるフレーズを指揮者がまとめ上げるので。南米やアフリカの伝統とはあまり関係ない気がします。
宇多丸 打楽器の寄せ鍋。だから、人種や民族関係なく誰でもコミットできるものなんですね、先日、RHYMESTERがブルーノートでバンド・セットのライブをやらせてもらったときに、特にリズム隊のメンバーと話したんですが、日本のポップスはメロディと歌詞が中心で、「リズムが中心になる音楽が理解される土壌があまりない」と。だからリズムが主役の音楽をやることに対して、皆さんきっと腕が鳴るというか、「ここならわかってもらえる」という感じがあったのかな?と想像するんですが。
織本 まさにその通りで、初ライブを経験したときにそれをすごく感じました。渋谷VUENOSに名もなき打楽器奏者が集まって、こんなキャパが大きいところでお客さんが来るのかな?と思っていたら、300人近く来ていただいて、1曲目が終わった後に凄い拍手喝采が起きて。終わった後も握手を求められたり、「良かったよ」という感想をたくさんいただいたりして、今まで歌の伴奏しか経験していなかったので、初めて拍手喝采とスポットライトを浴びたときの衝撃が凄くて、「これはとんでもないことになるぞ」という感覚がありました。

さの 私は初期メンバーではないんですが、LA SEÑASの2回目のワンマンを観に行って、打楽器全員に輝く場所があることに感激して、大号泣して、当時のリーダーに「入れてください!」とお願いしたんです。普段はフロントに立つことはないだけに、「これをやるために生きていたんだ」みたいな気持ちがあります。
宇多丸 さっき言ったように日本のポップ・ミュージックは今も昔もメロディや歌詞が重視されてきたと思うんですが、一方で日本の伝統的な祭りでは、実は打楽器が主役だったりもしますよね。つまり日本の大衆も古来、本当はリズム文化に生きてきたと思うし、太鼓を叩かれると血が騒ぐのは万国共通で、人間のフィジカルに埋め込まれたものだと思うんですね。また、これは私の友人のさかいゆうの言葉ですが、「21世紀になってメロディの時代が終わってリズムの時代に入った」ということの証明でもある。それはヒップホップやダンス・ミュージックが主流の世代にとってはごく普通のことで。そんなリズムの重要性が増している時代だからこそ、LA SEÑASは出るべくして出たグループという感じがします。
さの やった(笑)!
宇多丸 なぜリズム主導の音楽が増えているか?と言えば、要は音楽の打ち込み化が進んだからですが、それに対してスーパーフィジカルなのにマシーンのような正確さで演奏するという、そのせめぎ合いこそが現代的なライブ感を生み出すと僕は思っていて。LA SEÑASはそれをシステムとしてやられている、ということなんでしょうね。

織本 そう思っていただけるのは凄く嬉しいです。その上で、ハンドサイン・システムでジャンルがごちゃ混ぜにできるというのが、今の時代に合っているのかな?と思っています。様々なリズムを指揮者がコントロールして、それぞれの輝く場面を作って、かつフロアの様子も見て、お客さん巻き込んでライブを一緒に作り上げるというスタイルが。
宇多丸 しかも、全員が楽しそうなんですよ! こんなに複雑なことを、即興でやっているのにも関わらず。
さの めちゃくちゃ楽しいんですよ。ゲームをやっているみたいな感覚です。
宇多丸 超高度な音ゲーですね。
織本 それをライブでやることに意義があると思っています。目の前で起こっている現象を、音もミュージシャンの表情も全てにおいて楽しむのが大事なんですね。音楽をパソコンで見られるのが当たり前になっている時代だからこそ、ライブの価値がどんどん上がっていて、特にLA SEÑASはライブで本当に何が起こるかわからないバンドでもあるので、「俺たちはライブバンドだ」という意識でやっています。
宇多丸 打楽器はあらゆる楽器の中で、音という波を最も直接揺らすことのできる楽器。それをあれだけの人数でやっているんだから、音楽形態としてめっちゃ「強い」と思います。