ドイツ南部のフリードリヒスハーフェンで6月18日~21日、アウトドア関連の見本市「OutDoor」が開催されました。
今回まず紹介したいのは、ドイツのアウトドアアパレルブランド「Maloja」(マロヤ)。マロヤは自転車、ランニング、ウィンタースポーツといったスポーツアクティビティー向けウエアのほかに、街なかで映えるストリートウエアも人気です。
見本市で新シーズン(2018年)のコンセプトとして掲げられていたのは、「アルプス」と「日本」をかけ合わせた「Alps+Japan=ALPAN」(“アルパン”)。これは日本人として見逃せない!ということで、 どこらへんが日本コンセプトなのか、なぜ日本なのかなどを取材してきました。
Photo & Text/Aki SCHULTE-KARASAWA
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デザインコンセプトは毎年刷新。
マロヤの特徴は、毎年夏に刷新されるコンセプト。例えば2016年は「ROCK & ROLL」、2017年は「BEYOND THE MOUNTAINS」だった。これに続く2018年のコンセプトが“アルパン”というわけだ。
各シーズンのデザインは、コンセプトに従って完全に生まれ変わる。デザインの鍵となるパターンはもちろん、ボタンやジッパー、ロゴデザインといった小さなディティールまで変更する徹底ぶりだ。
マロヤのデザイナーのひとり、カテーナ・クノールさん(Cathena Knoll)に思わず「大変じゃないですか?」と聞いてみると、「色を決めるのは毎年大変な作業です。時間を費やして慎重に選んでいます」と教えてくれた。マロヤが注力するこのカラー選定は、同社のアイデンティティーともつながっている。
つまり、「マロヤ」というブランド名はスイス南東部に実際に存在する峠の名前だということと、山を愛するブランドであるということ。
“山を愛するマウンテニアリングウエア”というアイデンティティーは、マロヤが日本という山国に対して興味を抱いた理由のひとつだ。正直筆者は、日本の要素を取り入れたデザインと聞いた時、よくある国外の“日本風”デザインに見られるように「漢字やカタカナでもレイアウトされ始めたか…」と不吉な予感を抱えていた。
ところが2018年夏のコンセプトブックを開いた筆者は、その予感を一瞬で裏切られることになった。もくじを終え最初のページを開くと、ヨーロッパアルプスに象徴的なマッターホルンと共に富士山の写真が悠々と並んでいたのだ(しかも桜が写り込んでいる!)。
“絞り染め”は日本的要素を取り入れたきっかけ。
日本人の心の情景を最初のページに配してくるとは、“本物”かもしれない。そう感じ始めた筆者の目を次に捉えたのは、絞りの入った藍染のような女性向けノースリーブトップスだ。
「SHIBORIも、日本のインスピレーションを取り入れるにあたり重要なきっかけでした」と話すのは、マーケティングを務めるアンドレアス・ミッタークさん(Andreas Mittag)。
マロヤでは、2017年のデザインのひとつに、カラフルなタイダイ(絞り染め)を採用している。日本のSHIBORIは、ここから翌年へデザインのイメージを引き継ぐための役割を果たしたようだ。
「絞り染めという手法がパーフェクトだったことに加え、天然の素材を用い手仕事で作り上げるデザインはマロヤに合っている」と話したのは、クノールさん。
絞りのほかにも、刺し子といった手法やツル、桜といったモチーフを採用するなど、2018年のアルパンのデザインを注意深く見ればすぐに日本的な要素を見出すことができた。
異なるマテリアルでも楽しめるカラー。
またクノールさんをはじめとするデザイナーたちは、“山を愛するマウンテニアリングウエア”というアイデンティティーに基いてカラーを決めていく。
例えばネオンカラーが流行った時期でもそれを取り入れることはなかったし、ピンクがターゲットと言われる年でもそれに準じることはなかった。前年のカラーと大きくブレることなく、自然と調和する“今年のカラー”を地道に決めていくのみだ。
実際にコレクションを好みの色から検索できる「カラーフィルター」に並んだ2017年のカラーを見てみても、色とりどりながら優しさが伝わってくるものばかりだ。
本格スポーツウエアからストリートウエアまで、カラーに統一感があることも見逃せない。「異なるマテリアルでもコーディネートを楽しめるよう、最終的に同じカラーに見えるよう調整しています」とクノールさん。
つまり、レインコートの柄部分のピンクとカラーデニムのピンク、ロングスリーブフーディーのジッパーのピンクは、ぴったり同じピンクに揃えられている。
こういったデザインプロセスゆえに、35人程度の社員数という企業にあってデザイナー9人、プロダクト部門10人と、新デザインに携わる人数は全社員の半数以上を占める大所帯というのもうなずける。
新シーズンのデザインが始まる際はいつも大仕事であるとともに、デザイナーとしてはやりがいを感じることができ、全社が一斉に同じ方向にならう瞬間は「ワクワクする」雰囲気に包まれるのだという。
なお毎年デザインが変わるからといって、使い捨てや自然をないがしろにすることはない。例えばマロヤのブースは毎年木材を用いて山小屋のような空間が作られているが、この木材は古い農家の資材を活用したもので、ブースの骨組みとしてこれまですでに20回は使用しているという。
コンセプトブック製作のために行なった日本ロケでは、雲が開けて現れた富士山に喜んだり桜前線を追いかけとらえた桜吹雪の光景に感動したりしたそうだ。自然、そして山を愛するマウンテニアリングウェア、マロヤの、「Alps+Japan=ALPAN」シーズンデビューに期待したい。