
昨年4月、結成15年にしてソニーミュージック/エピックレコードジャパンから遅咲きのメジャーデビューを果たしたT字路s。アメリカーナやケルトなどルーツミュージックに根差すディープな音楽性、伊東妙子の強烈にソウルフルなボーカル、メッセージに溢れた熱い歌詞、どんな観客も巻き込み盛り上げるライブパフォーマンスを武器に、熱烈な支持者を増やしながら、2026年も精力的に活動中だ。
そんなT字路sは、10月2〜4日に開催される〈GO OUT CAMP Vol.22〉にも出演決定。メジャーデビューを経ての現在地からライブ観、さらにキャンプへの想いや〈GO OUT CAMP〉に向けた意気込みなど、様々な話題について、伊東妙子(ボーカル/ギター)と篠田智仁(ベース)にたっぷりと語ってもらおう。
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いい音楽を人に届けたいなら挑戦してみようよ
―昨年のメジャーデビューという節目を経て、何が一番変わりましたか?
伊東妙子 気持ち的には、メジャーだから変わったということはないかもしれない。ただ、サウンドプロデューサーがいて、ディレクターがいて、一緒に作品作りしたということは、今までと大きく違ったところですね。佐橋佳幸さんにプロデュースしてもらうのは、メジャーじゃなければあり得なかったと思うので、新しい挑戦ができたとは思います。
―チームが大きくなった、という感じですかね。
伊東 そうですね。インディー時代も、特にサントラや映像作品の主題歌の制作などでは、チームとしていいものを作ろうと、全員で意見を出し合っていったし、そういうやり方が好きだったので。それと重なる部分があるというか、自分では意識していなかった持ち味や強みを、指摘してもらうことで気づけたりして、そういう意味でも意義深かったですね。
―結成15年で、メジャーレーベルと契約してデビューできるんだということは、後ろに続く人の勇気になっていると思うので、そういう意義も絶対にあると思います。
伊東 そうだといいですね。「人生何があるかわかんないから楽しんでいこうよ。縮こまってなくていいんじゃない?」という感じです。中年の星として(笑)。
篠田智仁 僕らの場合、15年かかったから、メジャーに行こうかという気持ちになれたのはありますよね。これが結成して2年、3年だったら、メジャーなんか行かねえよみたいな、突っ張っているところがあったと思うんですけど、いまはメジャーだろうがインディーだろうが、「いい音楽を作って人に聴いてもらいたい気持ちがあるなら挑戦してみようよ」と思っています。
伊東 15年もやってきたから、ひとまず揺るがない自信はあるんですね。メジャーだろうがインディーだろうが、誰かに何を言われようが、軸はしっかりあるという自信ができていたから、「じゃあやってみようかな」と。


―そして、去年リリースされたメジャー・ファーストアルバム『MAGIC TIME』、素晴らしいです。ルーツミュージック的な曲の博覧会みたいで、カントリー、ニューオリンズR&B、ブギー、ソウルバラード、ケルトっぽい曲もあったりして。改めて、どんなアルバムですか。
伊東 佐橋佳幸さんに、ずっとやりたかったけれど、二人だと表現できなかった音楽をしたいとぶつけてみたら、面白がってくれて、「バリエーションを増やすことを突き詰めてやってみよう」という、楽しい作品作りでした。
―挑戦というよりは、元々あったものを大放出みたいな。
伊東 そういうものが好きで聴いてきたし、実際それをやっているんだけど、二人だと、ニューオリンズのピアノなんて出てこないじゃないですか。そこで「ニューオリンズっぽくやりたい」「ケルトっぽくやりたい」というものを、実際に表現してもらったということですね。
篠田 自分たちの頭の中では音が鳴っていて、「この曲だったら鍵盤はこう、ドラムはこう」というのをイメージしながら、二人で演奏してきたんですけど、それを佐橋さんが汲み取ってくれて、頭の中で鳴っていたものをそのままアレンジして出してくれました。難しい作業だったと思うんですけど、すごく自然な感じが出たと思います。
伊東 たぶん佐橋さんも、ニューオリンズっぽい、ケルトっぽいとか、こんなにストレートにやるには久しぶりだったんじゃないですか。「思いきりやっちゃっていい?」みたいな感じで、楽しんでいましたね。


いいライヴのときは自分が筒になったような感じ
―それから1年が経って、今は新しいツアー〈T字路s MAGIC WANDERIN’DUO TOUR 2026〉の真っ最中。どんなツアーができていますか。
伊東 バンドでのアルバム・ツアーを挟んで、久しぶりの二人ツアーなので、原点回帰と言うか、二人でできる表現を見つめ直している感じがします。
篠田 元々二人だったんですけど、バンドを挟んだことにより、演奏が少し変わってきた印象があるんですね。以前は、音数は少なくても、それを感じさせない演奏をしようと思っていたんですけど、バンドと一緒に回って、頭の中で鳴っていた音を鍵盤やギターで出してもらうことで、より明確にイメージができるようになって、それを逆に二人のベースやギターのフレーズで表現しようかとか、そういうところが変わったと思います。二人なんだけど、バンドで出す音を感じてもらえるような、グルーヴを作る意識が強くなりました。
伊東 バンドでライブをする時は、単純に合奏の楽しさがあるんですけど、全体の音に対する自分の分量が少ないので、ちょっと緊張感が薄れるというか、楽できるという感覚もあって、それに対して二人になると、より曲に集中する感じはあります。それと、最近よく言っているのは、いいライブの時は自分が“筒”になったような感じがするんですよ。曲があって、それが自分を通り過ぎていくだけのような、自分がメガホンになったような気持ちで、すごく自由にできるんですね。全然共感してもらえないんですけど(笑)。
―なんとなく、わかるような気がします。
伊東 集中していることに無意識になるというか、そんな感覚です。

―大きな変化ですよね。それと、ツアーのエピソードを一つ聞きたくて、6月に兵庫県豊岡市の出石永楽館でライブをやりましたよね。映画『国宝』のロケ地にもなった有名な会場ですけど、やってみてどうでした?
伊東 すごかったですよ。現存する関西最古の芝居小屋で、館長さんに案内してもらって、人力で舞台を回す装置とか、花道へ飛び上がる仕組みとか、全部見せてもらいました。私は落語が好きで、篠ちゃんは歴史小説が好きで、日本の古典芸能にもすごく興味があるので、「本物が現れた!」みたいな感じで、とても楽しかったです。日本式の円形劇場というか、コロッセオみたいな感じになっているので、歌っていても会場全体から歓声が降ってくるような感じがしました。
篠田 今回のツアーは、永楽館とか、名古屋のちくさ座とか、ちょっと面白い会場を多めに入れているんですね。お客さんも特別な場所で見たいという気持ちは強いみたいですし、音を作ったり、演奏したりするのは難しいところもあるんですけど、そこも含めて楽しいというか、やりがいがあるという感じです。
―面白い、個性的な会場と言えば、7月24日、25日のツアーファイナル、横浜THUMBS UPもそうですよね。ビルの再開発で、9月で一旦閉店になるようですけど、T字路sにとって思い出のハコだと聞いています。
伊東 私たちが結成して間もない頃、まだお客さんが3人くらいしかいない時でも気持ち良くやらせてくれた、懐が深いハコなんです。3人でも、満員でも、同じテンションで「いいライブだったよ」と言ってくれる、とても居心地のいい場所で、最後にワンマン2DAYSをやらせてもらえるのはすごく嬉しいですし、ずっと見守ってきてもらったので、寂しいですけど、きっとまた移転して再開してくれると思うので、今はただ感謝でいっぱいですね。


住むところさえあれば、この稼業はなんとでもなる
―内装の雰囲気も、すごく味わいのある場所なので、みなさんも閉店前にぜひ訪れてほしいと思います。そしてツアー終了後、10月2~4日の〈GO OUT CAMP Vol.22〉に、T字路sの出演が発表されました(*出演は10月3日)。最初に出演された2017年、大阪万博記念公園の〈GO OUT MUSIC CAMP〉、覚えていますか?
伊東 よく覚えています。私たちは、コロナ禍を経てキャンプが大好きになったんですけど、その時はまだアウトドアに興味がなくて。私はワンピースにハイヒールというスタイルで、かっこつけてやっていたから、「なんか場違いだよね」とか実は思っていました(笑)。あとは、同じ日に出ていた人のライブを見て感動したりとか、バックヤードのご飯が美味しかったり他の出演者の人たちが、ずらっと並んでステージを見てくれていたのも覚えています。
―当時のスタッフの証言によると、PUSHIMさんやMIGHTY CROWNのメンバーが、T字路sのステージを見に来て、すごく盛り上がっていたとのことです。
伊東 すごいことですよね。こっちはこっちで、PUSHIMさんのステージを見て「すげえ!」って言ってたんですよ。うちらはちっちゃいほうのステージで、あっちは広いほうのステージで、後ろのほうで見て感動したのを覚えています。
―元々キャンプフェスや、野外ライブは好きですか?
篠田 好きですね。毎回環境が違うので、難しさもありますけど、出たとこ勝負は意外と得意なので。元々バーや飲み屋とかで演奏していたので、モニターがよく聴こえないからいいライブになりませんでしたとか、そういうこともなく、整っていない場所のほうが気合いが入るというのはあります。2人が寄り添って、生声が聴こえれば、ギターの音が聴こえれば合わせられるし、そういう意味では野外は好きですね。景色や環境を感じながら、生音を感じて演奏できるし。
伊東 ふもとっぱらで演奏するのは初めてなので。楽しみだね。
篠田 そうだね。キャンプ動画の聖地みたいなところだから、そういう雰囲気も楽しみです。
―セットリストは、会場の雰囲気や客層を想像して考えますか。
伊東 そうなんですけど、うちらの場合、キャンプに合う曲はそんなにない(笑)。でも今度のアルバムで、焚火の歌があるから。
篠田 ケルト調のやつね。「燃やせ燃やせよ」。
伊東 焚火になぞらえて、人生とか生きざまを歌うような曲があります。あれはきっと野外に合うね。「その日暮らし」も合うと思う。

―伊東さんの書く歌詞って、励ましたり、元気づけたり、熱い気持ちを伝えたり、背中をドカンと押すような曲が多いですよね。誰かを想定して書いていますか。
伊東 自分的には、励ましたり、背中を押したりする曲を書いているつもりはなくて、要は自分に対して歌っている感じです。自分を励ましたり、自分の背中を叩いたり、それが聴いてくれる人に重なったらいいなという思いを、最後にちょっと付け加えて詩を整えるイメージですね。いつも思うのが、言葉がわからない言語の歌詞でも、感動して涙が出ることがあるじゃないですか。それは、どれだけ歌い手が気持ちを込められているかだと思うので、まずは自分がそういうふうに歌える詩を作ろうと思っています。
―気持ちが重なり合う歌。ふもとっぱらで聴けるのを楽しみにしています。最後に一つ、さっき、コロナ禍以降にキャンプが大好きになったというお話がありましたけど、今はどんなキャンプライフを楽しんでいますか。
伊東 2020年にキャンプにハマって、「こんなに楽しいことがあるのか!」と思って、それがエスカレートしたのか、2023年に、山の中の340坪の土地に移住しちゃったんですね。そこで1年間キャンプしながら、家とスタジオを作ったんですよ。そしたらもう、キャンプ場に行かなくなっちゃいました(笑)。
―なんと!もはや家がキャンプになっているみたいな。
篠田 住居ができる前は、敷地内にあった廃工場の中にテントを張って過ごしていました。
伊東 電気もなかったので、ソーラーと発電機を借りて。
篠田 ちょうどコロナの時期と重なったから、時間に余裕があったので、「今だな」と思ってやっちゃいました。
伊東 篠ちゃんは釣りが好きだったりして、元々アウトドアが好きなんです。私は2020年までアウトドアというものに全く興味がなかったんですけど、もう完全にアウトドア派ですね。大自然の中で生きています。今は住居もスタジオも整って、キャンプをしているわけではないんですけど。
篠田 焼き台みたいなものが常に置いてあって。
伊東 ピザ釜もあって。焼いたり、スモークしたり。
篠田 人が来たら、勝手にその辺にテントを張って寝てもらったり。
伊東 敷地沿いに沢が流れていて、ちょっと前のホタルのシーズンには、毎晩ホタルを眺めていました。家庭菜園もやっていて、今はキュウリがたくさん取れています。

―その生活は、もちろんメンタルにも、ひいては音楽にも、影響してきますよね。
伊東 絶対にいいと思いますね。
篠田 この稼業って、ツアーで街から街へ移動して、終わったら飲み屋で打ち上げして、の繰り返しじゃないですか。ツアーから帰ってくると、東京にいた頃は「また街に帰ってきた」みたいな感じだったんですけど、ここに住むようになってからは、夜は8時ぐらいになると真っ暗ですし、オンとオフのメリハリがあって、リセットできるんですよね。近所に居酒屋があれば……とか、たまに思いますけど、星が綺麗なところで、家で焼酎とか飲んでいるほうが、僕らにはいい影響があるかもしれないですよね。
―一つの理想だと思います。もしかしたら、この15年でそれが一番大きい出来事かもしれないですね。
篠田 住むところさえあれば、この稼業はなんとでもなるなと思います。家賃さえ払えれば、好きだったら続けられる仕事だなと思っていますね。
伊東 やりたいことができているのが、何より幸せじゃないですか。生活環境も含めて、それができているので、今は幸せです。この幸せが続くように、これからも頑張っていきたいですね。
T字路s
オフィシャルサイト: tjiros.net/
X(エックス):x.com/Tjiros
Instagram:www.instagram.com/tjiros_official/
インタヴュー・文/宮本英夫
ライブ写真/hiro
T字路sも出演する〈GO OUT CAMP 2026〉の概要はこちら。
【GO OUT CAMP 2026】
公式サイト:www.gooutcamp.jp/goc/
開催日:2026年10月2日(金)、3日(土)、4日(日)
会場:ふもとっぱら(静岡県富士宮市)
出演アーティスト:
T字路s/PUSHIM × 韻シストBAND/スナックはせべ(DJ HASEBE、ZEN-LA-ROCK、嶋野百恵)/JUMBO MAATCH/TAKAFIN/BOXER KID/RYO the SKYWALKER/D.W.ニコルズ/ICHI-LOW/Satoshi Miya/+music/GetSerious/歌声ナイトクラブ
