地方に移住したり、二拠点生活を送ったり、そうした暮らし方を以前より選びやすくなった昨今。とはいえ実際のところ、いまある生活を抜本的に変えるのって難しいもの。仕事もあれば、家庭も、友人関係だってある。
でも、職場や働き方はそのままで、暮らしだけちょっと離れた場所に移すパターンならどうだろう? いうなれば、“都心勤務、郊外暮らし”。移住や二拠点より、ハードルが低くてリアルな選択だ。
ここで話を聞くのは、そんな暮らし方を選んだヒト。そこに至った経緯、“都心勤務、郊外暮らし”のイイとこ・悪いとこ、ライフスタイルの変化など、ぶっちゃけバナシを教えてもらおう!
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カフェ併設の住まいを、現実的に選んだ。

新卒でチャムスに入社し、長年働いてきた秋元さん。店舗勤務を経て、勤務体系や休日が本社に準じるようになったタイミングで、それまで暮らしていた昭島市から、同じ多摩西部に位置する青梅市に引っ越し、家を買うことに決めた。

探したのは、店舗利用も可能な物件。妻・那奈さんの、カフェをやってみたいという希望を叶えるためだった。家は家で買い、さらに店舗用の物件を別の場所に借りるという選択は、経済的に現実的じゃなかった。

「最初は建売や新築なんかも考えましたが、絶対に無理な金額とスペース感でした。そうこうしているうち、妻がこの物件を見つけてきたんです。借り入れなんかもうまくいって、無事営業させることができました。ここに越してきたのは2025年の2月。その5月に、妻がカフェをオープンしました」
そもそも青梅市って、どんなトコ?

現在秋元さんが暮らす青梅市は、多摩地域西部に位置する郊外。市域の約6割が森林で、また西から東へかけて多摩川が流れる、東京都のなかでも自然豊かな場所だが、都心から1時間程度でアクセスできる。
秋元家からの最寄り駅は、青梅線の端っこである青梅駅から都心方面へ2駅いった「河辺駅」。駅前はかなりのどかだが、北口にはイオンや天然温泉、図書館などがあって、ファミリー層が暮らしやすそうな街だ。

「田舎ですが、それなりに駅前が発達しているのは、登山客が訪れるからだと思います。御嶽や奥多摩の方は最寄り駅に温泉がないので、だいたい、河辺駅までやってくるようで」
秋元さんいわく、このあたりは、地元である栃木県那須郡の町にもどこか似ているという。「うちから歩いて数分の多摩川では、近隣のひとたちがバーベキューや川遊びをしている様子をよく見かけます。東京都内で、しかも駅からこんなに近くに外遊びできる場所があるっていうのは、大きな魅力ですね」。

実は近年、青梅市や青梅線沿いには、秋元さんの同世代である3、40代によるオシャレな個人店が増えていて、にわかに街も盛り上がっているのだとか。彼のように新たな拠点として青梅を選ぶヒトもいれば、地元民が戻ってきて新しく店をはじめるケースも多いらしい。
「古着屋にワインショップ、雑貨屋、ジェラート屋など、なんでこんなにあるんだろう?ってくらい、素敵なお店が多いんです。なかには海外でもかなり有名なお店が、フツウにあったりして」

自転車やクルマに少し乗れば回れる街のスケールや、バスなど交通の便もイイこと、そして土地や物件が安く、空いている場所も多いことなどがその理由ではと、秋元さんは、住んでみての実感とともに話す。「街に商店街が少ないというのも、個人店が入りやすい理由のひとつだと思います」。
都心勤務、郊外暮らし。ここがイイ!
さて、イチバン気になるのは、「都心を職場にしながら、住まいは郊外に構える暮らしって、ぶっちゃけどうなの?」ってコト。秋元さんが言うには、青梅に引っ越してから、電車での通勤がとにかく快適になったのだとか。
「まず、何時に乗ろうが絶対に座れます。通勤快速を使えば、新宿まで1時間。表参道の職場までは、ドアtoドアで1時間45分程度ですね」。少々かかるが、それでも十分現実的な通勤時間だ。通勤中はというと、「メールチェックをしたり、ネットサーフィンやネットショップで情報を集めたり、ラジオや音楽や本を楽しんだりしています」と、軽やかな口ぶり。

まだ子どもが小さく、土日は那奈さんが店に立っているいま、ジブンのために遣える時間はほとんど無いという。そんななか、通勤中だけは、なにをしようがフルで自由。そんな時間が毎日かならず1時間確保できることが、郊外暮らしの思わぬ副産物だったらしい。
「最寄りが、青梅線の端っこの方なのもポイントです。始発は基本的に青梅駅で、ときどき河辺駅が始発になったりもしますから。通勤中の快適を求めるなら、時間を縮めようとして中途半端に都心寄りの駅に住むより、思い切って奥まで来ちゃったほうがイイと思いますよ」
逆に、残念な点は?
「逆に、帰りは地獄です……。何時に乗ろうが満員電車。本当にキツい日は、700円払ってグリーン車に乗っちゃいます」。電車通勤には、イイ面、悪い面がハッキリとあるようだ。

また、家庭でなにかがあったときなどにスグに帰って来られない距離にも、心配はあるという。同じ理由で、平日は子どもと過ごす時間がほぼ無いことも、郊外暮らしの難点。朝早く家を出て、残業などがあって夜遅く帰ると、ヘタすれば起きているときの子どもに会えない。
「昭島のモリパーク アウトドアヴィレッジ店で働いていたときは、家まで自転車で10分の距離だったので、以前の生活スタイルと同じようにはいきませんね……」
距離でいうと、郊外特有のヒト付き合いにも、まだ慣れないところがあるらしい。イイ意味でも悪い意味でも、ヒトとヒトとの距離は近いみたいだ。

「歩いていると声を掛けられることが多いですね。あまり親しくなくても、立ち話したりとか。妻がカフェをやっているのもあって、多少“見られてる感”もあります。反面、野菜をいただいたり、なにかと気にかけてもらえたり、もちろん助けられることもありますよ」
家づくりはできるだけDIY。デザインも手描きで。

さて、住まいについて。秋元さんの家は2階建て+ルーフトップバルコニーで、1階部分をカフェに、2階部分を居住スペースにしている。この物件はもともと工場として使われていたそうで、それをほぼスケルトンにするところからはじめ、ごく簡単に手を入れたという。

シャッターだったという1階の正面部分を壁に造り替え、ほかの3面の壁は夫妻みずから塗装した。2階部分も同じくで、DIYした部分が多いらしい。改装にあたっては、デザイン会社などを入れず、那奈さんが手描きしたデザインイメージをもとに、施工業者に口頭で希望を伝えていったのだとか。
「『2階には3部屋つくりたい』『部屋の大きさは大体このくらいで』『そのほかランドリーやトイレをこういう風に置いてほしい』『この辺に仕切りをつくって』とか、そんな風にある程度大雑把にお願いしました」



1階のカフェスペースは、工場だった空間をほとんどいじらず生かした、奥行きも天高もある約80㎡の第空間だ。テーブルや棚といった什器は、ローカルの古道具屋などで調達することが多いという。
また、その奥にはさらに40㎡ほどの部屋がある。「その部屋は倉庫にしようという案もありましたが、いまはとりあえず空けてあります」。

できるだけ初期コストを抑えるため、2階の天井は張らずに済ませた。いまのところ、お金も手間も1階のカフェをとにかく優先しているため、居住スペースは最低限しか手を入れられていない。家具選びは、福生のdecoboco storeに相談することが多いのだとか。

ちなみに秋元さんが住まいで気に入っているポイントは、古いガラス窓。「もとは工場だっただけに断熱材も入っていないから、古いガラスだとやっぱり寒いです。ただ、いちど替えてしまうと手に入らないものなので、あえてそのままにしています」。
休日の過ごし方も、カフェ一体型住居ならでは。

都心と郊外を行き来して暮らす秋元さん。平日に子どもと過ごす時間をほとんど持てない分、土日はめいっぱい一緒に過ごす。「1階のカフェで過ごすこともあれば、どこかへ遊びに行った帰りにここでお茶したり、ご飯を食べたりすることも」と、カフェ一体型住居だからこそ、アソビも快適で、充実しているという。

イイとこもあれば、もちろんイイとこばかりじゃないけれど、“都心勤務、郊外暮らし”を選んだことで、暮らしもアソビも、人間関係も変化して、豊かになっていく。
これからも、そんな郊外の意外な魅力や都心勤務のリアルを探っていきたい。
Photo/Shintaro Yoshimatsu
